【ものがたり部門】牧口いちじ賞 竹内さつき様作品

『ピックとニックと小鳥ちゃん』

 

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これは、小さな 小さな小鳥が、ひとりで空を飛べるようになるまでの、短いようで長い、長いようで短いお話です。

 

ある日、ピックとニックがいつものお花畑で遊んでいると、ピックを背に乗せて一緒に遊んでいた、大きな青い鳥が言いました。

「ちょっと困ったことがあるんだけど、聞いてくれるかい。」

ピックとニックは、

「もちろん。」

とうなずきました。

「そこのかわいい かわいい小鳥ちゃんのことなんだ。」

ピックとニックはまわりをきょろきょろと見回して、やっとのことで、大きな花のかげにかくれるようにして、ちょこんと止まっている小鳥を見つけました。青い鳥は続けます。

「そろそろわたしのように飛べてもいい頃なんだけど、一向に飛べないんだ。むしろ、空を飛ぼうとしないんだ。わたしが教えてもてんでダメで、ピックとニックならこの子が空を飛べるようになる、いい方法を知っているんじゃないかと思って、連れてきたんだ。ちょっとの間、この子と一緒に過ごしてやってくれないかな。」

これまでいろんなところを旅しながら、多くのことを知ってきたピックとニックです。

「もちろんだよ。おやすい御用さ。」と言って、この小鳥を少しの間、あずかることにしました。

 

 

 

 

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小鳥をあずかって最初の夜のことです。

小鳥は、背の高いニックのそばにぴったりとくっついて離れません。慣れないところに急に連れてこられた小鳥は、すっかりおびえて、一言も口をききませんし、眠れないようです。

眠れない夜はどうしたらよいのでしょう?

ピックが言いました。

「眠れないなら、無理に眠らなくたっていいじゃないか。ねえ、僕たちがこの間行った、くらげ星雲のおねえさん達のところで楽しいお話を聞かせてもらおうじゃないか。」

ニックもにっこりとうなずきました。

 

そうして、ピックとニックはあっという間に夜空を飛んで、飛べない小鳥と一緒にふたご座の足もとに広がる、くらげ星雲へとやってきました。くらげ星雲のおねえさん達は、ゆーらゆらとまるで海の中を泳ぐように、気持ちよさそうに夜空を漂っています。おねえさん達はいろいろなお話を知っていました。時間が経つのをすっかり忘れて、二人と一羽の小鳥は熱心にお話に耳を傾けました。

 

 

 

 

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夜が明けようとしていました。眠れなかった小鳥はいつの間にか、三日月さまと一緒に星空のお花畑で、すやすやと眠っていました。

 

ピックとニックは微笑んで、

「さあ、このかわいい小鳥ちゃんはどうしたら飛べるようになるのかな。」

と相談しあいました。一緒に相談にのってくれたのは、物知りのクジラ座のおじいさんです。

「やあやあ、これはピックとニックじゃないか、久しぶりじゃのう。もうすぐ夜が明ける。わしは消えてしまうが、消える前にお困りのことがあったらなんでも聞くぞ。」

ピックとニックは、飛べない小鳥のことを話しました。

「それなら、北の森の奥深くのモミの木に頼んでみたらどうじゃ。わしも若い頃には何度も助けてもらったもんじゃ。」

ピックとニックが、

「ありがとう!クジラ座のおじいさん!」

と言うと、あっという間に夜が明けて、クジラ座のおじいさんも、きれいな星空のお花畑も、そして三日月さまも朝日のなかに消えてしまいました。夜空のみんなから、

「お元気で。また会えるのを楽しみにしているよ。」

と見送られ、二人と一羽の小鳥は北の森へと向かいました。

 

 

 

 

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ピックとニックは、教えてもらった通り、北の森の奥深くにやってきました。二人にとって、ここははじめての場所、見たこともない植物がいっぱいで、どの木がクジラ座のおじいさんの言っていたモミの木かわかりません。

その時、ニックのひざの上で目を覚ました小鳥がはじめて口を聞きました。

「ここ、前にいたところだよ。」

ピックとニックはびっくりしました。なぜって、これまで世界中のいろいろなところを旅してきた二人がはじめて来た場所を、この飛べない小鳥が知っていたからです。

ニックが聞きました。

「この森の中に、頼みごとを聞いてくれるモミの木があるそうなんだけど、君は知っているかい。」

小鳥はすぐに答えました。

「よく知っているよ。だって、そのモミの木にある巣で生まれたんだもの。」

この北の森の奥深くは、なんと小鳥の生まれ故郷だったのです。ピックが言いました。

「じゃあ、君が生まれたっていうモミの木まで案内してくれるかい。」

「すぐそこだよ。」

と小鳥は言って、ピックとニックを森の中でもひときわ大きなモミの木まで案内してくれました。小鳥はその木に声をかけます。

「ただいま。飛べないまま帰って来たよ。」

すると、モミの木が話し始めました。

「はじめまして、ピックに、ニックね。小鳥ちゃん、はじめての旅はどうだったのかしら。飛べないままと言ったけど、そう思っているのはあなただけかもしれないわよ。」

小鳥は、

「だって飛びたくないよ。ずっとここにいるよ。」

と寂しそうに答えました。モミの木は言います。

「ピックとニックに聞いてほしいことがあるの。実は、この子をあなた達にあずけようと思ったのはわたしなの。この子はお父さんもお母さんも亡くして、周りの鳥たちが世話をしていたんだけど、どうしてもこの巣を離れようとしなくてね。そろそろ季節も変わる頃で、ここにずっといては、厳しい寒さに耐えられなくて死んでしまうと思ったの。それで、なんとか他の鳥たちと同じように飛べるようになって、ここから旅立ってほしかったの。」

 

モミの木の話を聞いて、ピックは、いつも自分が元気を出したいときに吹く笛を取り出して、演奏を始めました。ニックは笛に合わせて歌います。

 ♪かわいい かわいい 小鳥ちゃん

  つらい過去はなくならない

  でも未来は必ずやってくる

  ここが君の新しい出発の地さ♪

モミの木も、二人の曲に合わせて、この森の珍しい花をたくさん降らせてくれました。

小鳥は新しい門出を祝ってもらっているように感じました。そして、自分が飛べるようになることで、ほんとうの旅が始まること、未来がやってくることに気づき、はじめて羽を小さくふるわせたのです。

 

 

 

 

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さあ、ピックとニックと小鳥が再び旅に出て間もなく、春を運んでくる風の吹くところへやってきました。風と一緒に草花は気持ちよさそうにゆられ、ちょうちょう達も楽しそうに飛んでいます。

思わずピックも風に吹かれて、ふわりと空へ舞い上がりました。

「さあ小鳥ちゃん、僕と一緒においでよ。このちょうちょう達のように空を飛んでみようよ。」

小鳥は「飛ぼう」と思うのですが、どうしてもすくんでしまって、飛び立つことができません。ニックは優しく見守ります。

「大丈夫だよ、小鳥ちゃん。今の君には、飛ぼうという気持ちがある。だから、大丈夫だよ。」

 

 

 

 

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ピックとニックは広い原っぱに立っていました。小鳥はあれから何度も何度も練習して、少しずつ飛べるようになっていました。でもひとりで遠くへ行くことはできません。いつもピックとニックがそばについていて、少しだけ飛べるのです。

ピックとニックは、「もう大丈夫だよね。」とお互いの顔を見合わせて、原っぱに呼びかけました。

「この小鳥ちゃんのために力を貸してくれないかい。小鳥ちゃんがひとりで旅立てるように、途中まで見守り役をつけてほしいんだ。」

原っぱは、

「もちろんだとも。この小鳥ちゃんのがんばりは、みんなが知っているからね。」

と言いました。そして、大地からいっせいに新芽を芽吹かせたのです。この新芽たちもこれから世界中へと旅立ちます。小鳥は、

「ピックとニック、今まで一緒に旅をしてくれてありがとう。これからはこの新芽たちといろいろなところを旅してくるよ。また会う日までお元気で。」

と言って、二人がリボンを結んでおいた新芽とともに勢いよく飛び立ちました。

「こちらこそありがとう、小鳥ちゃん。君のおかげで楽しい旅がたくさんできたよ。僕たちは君の帰りをいつでも待っているよ。旅のお話を聞かせてね。」

ピックとニックはそう言って、小鳥が見えなくなるまでずーっとその姿を見送っていました。